2021年大学同窓会講演会 参加者から頂いたご質問に対する講演者からのご回答

2021年4月24日(土)13:00~15:30 オンライン配信(Zoomウェビナー)時に参加者から頂いた質問に対し、後日、講演者から回答を頂きましたのでQ&A形式にて下記に掲載いたします。

はやぶさ2プロジェクトに関する質問

Q-01:地球とリュウグウとの電波交信時間はどのくらい時間がかかりますか?
A-01:はやぶさ2がリュウグウに滞在中の1年半、地球とリュウグウの距離は3億km~3.6億kmの間で変化しました。これは電波の速さで17分~20分に相当します。
Q-02:リュウグウに設置した人工衛星はどのような仕事を行っているのですか?
A-02:リュウグウを周回させた2つのターゲットマーカーのことですね?周回している様子をはやぶさ2のカメラで撮影しました。その軌道を解析することで、リュウグウの重力場(のちいさな歪等)を正確に知ることが出来ます。
Q-03:リュウグウに重力は無いということですが、「はやぶさ2」が表面に張り付いていることはできたのですか?
A-03:正確には、リュウグウ表面の重力は地球表面の8万分の1はあります(念のため)。この小さな重力のために、ミネルバIIやマスコットなどの着陸機、ターゲットマーカーなどは地表に張り付かせることができています。はやぶさ2探査機のタッチダウンに際しては、瞬間芸のように地面に接地して数秒後には離陸するだけなので、重力の大小に関係なく運用出来ました。
Q-04:リュウグウの表面の岩を一つずつ人間が解析したということでしたが、この解析を自動で正確に行える技術が発達すれば、宇宙研究が盛んになると思いますか?
A-04:局面によってはそうだと思います。リュウグウのような未知天体に行って、着陸する局面は数年に1回のイベントなので、その場で科学者が全力を出し合えば、それが一番効率が良い気がします。しかし、たとえば、(NASAが火星着陸ローバーでやっているように)天体に着陸してその後動き回って探査するような場合、いちいち人力に頼るのは現実的でないでしょうから、自動的な方法が有用と思います。
Q-05:小惑星に落としたマーカーなどは回収するのでしょうか。また、回収しないのであれば、次に観測しに行くとなったら邪魔にならないのでしょうか。
A-05:回収しません。まさに混同する懸念があったので、1回目のタッチダウンと2回目のタッチダウンは全く別の場所から選ぶという作戦にしていました。また、この混同のことを考えると、1つのタッチダウンで、ターゲットマーカーの落とす場所を失敗した場合やり直せばよいという訳に行かないので、ターゲットマーカーを正しいところへ落とす運用は慎重に行いました。
Q-06:人工クレーターを作ることの大きな意味というのは何でしょうか?
A-06:・クレータープロセス生成の理解:
自然天体上でクレーター生成の一部始終が観察されたことはない。月の研究を中心に、クレーターの科学は盛んで、クレーターの分布や形状をもとに、その天体の年齢や地質を理解する研究が多くなされている。その前提はクレーター生成プロセスの理解。
・小惑星の地下の状態の理解: 掘削された地下の状況、地表との違いを知ることで、小惑星の内部構造についての知見をも得ることができる。
・フレッシュな物質の取得: 掘削された地下物質は、宇宙放射線や太陽紫外線に一度も晒されていない、何億年も昔の状態をとどめている物質と思われる。これを地球に持ち帰ることで、劣化していない太陽系の歴史の情報を取得することが出来る。
Q-07:工学チームを信頼し科学チームが着地をお願いしたシーンには感動しました。津田先生は当然着地を望んだと思いますが、先生自身の中で2度目の着地を成功させる自信はどれほどのものだったのでしょうか! 何割という形で答えていただけると嬉しいです!!
A-07:9割5分です。(あとの5分は、神社へのお参りやゲン担ぎで賄いました)
Q-08:採集したサンプルの大きさについて質問です。なぜ、1回目で採集したサンプルよりも2回目のクレーターの発生から採集した地下物質の方が大きいのでしょうか?
A-08:これはまだわかりません。地域差なのか、地表と地下の違いを意味しているのかを識別するためには、今後の研究を待つほかありません。私自身も楽しみにしています。
Q-09:①岩のサイズを1つずつ測定したと仰っていましたが、人力で計算したのでしょうか?そうだとすると宇宙で使用できるカメラは地上で使用しているカメラよりも制約があるということでしょうか?(今はスマートフォンの単眼カメラでも距離を測定できたりするため)
②マーカーを落としたり、はやぶさ2のフリーフォールという言葉がありましたが、小惑星にも自由落下できるほどの重力が生じているのですか?
③人工クレーターへの着陸の安全性を証明するプレゼンテーションをされていましたが、上層部が元々反対していた中で最終的な決定までスムーズに進められたのでしょうか?
④シミュレータの部屋やリュウグウの地形にトンチの効いた名前を付けるなど、ユーモアのある方が多いとお見受けしたのですが、そういった楽しい雰囲気作りも普段から意識しているのでしょうか?
A-09:①人力です。“科学的に”正確に岩のサイズを測ろうとすると、現在のスマホ等に搭載されている機能は使いにくいです。そこそこの処理は出来るでしょうが、cm単位の正確さで算出しようとすると、個性の強い岩々を正しく処理するためにたくさんのテストをして、答え合わせをして、初めて使い物になります。そのためには結局、ひとつひとつ測る作業が必要になります。未知の環境で初めて何かをする状況で頼れるのは、人間の感覚や能力の方だったとも言えるかと思います。
②非常に小さい(地球の地表の8万分の一)ですが確かにあります。そのために生ずるかすかな放物運動を検出していることになります。
③スムーズではなかったですが(笑)、チーム内が科学者・技術者・メーカー全員が同意見で結束できていたことで、何とか意見を貫き通せたという感覚です。
④はい、実際チーム内は楽しい雰囲気でした。探査は、知識の地平を広げる活動ですから、やっている当人が楽しくやらなければウソだ、という意識がありました。この感覚がないと、あえて種々のプレッシャーを受けながら挑戦してやろう!という気にはなれないとも思います。
Q-10:シミュレーションルーム(神の間)にいるメンバーはいつも同じ人なのでしょうか?
A-10:6名ほどいましたが、基本的には固定メンバーでした。時々、特殊な不具合を発生するために、特別にその技術の専門家を臨時の神として“招聘”したりはしていました。
Q-11:初代はやぶさでうまくいかなかった小惑星との距離を測るセンサの問題は、どう解決したのですか
A-11:LIDAR、LRFのことでしょうか。初代はやぶさでもチューニングは必要でしたが、うまく機能していました。初代では、これらの機器の開発には大変苦労していましたが、はやぶさ2はその開発時のノウハウが全て使えました。(それでもイトカワより黒いリュウグウに合わせるためのチューニングには苦労しましたが)。
Q-12:運用中・かつオペレーション中に軌道上でプログラムを書き換えるというのはかなり怖い行為だと思いますが、どのようなノウハウがありますか?バグによる停止などがシステム全体に伝播しないような仕組みなど、特別に準備していたものがあったのでしょうか?
A-12:はやぶさ2のソフトウェアにはいくつかのレイヤーがあります。着陸実現するために書き換えたのは、着陸の手順を司る比較的上層のシーケンサーの部分です。レイヤーがわかれているため、下層のレイヤーに悪影響を及ぼすことをあまり心配する必要はありませんでした。もちろんその書き換えの正しさを確認するために、地上での検証テストはたくさん行いました。
Q-13:ミネルバではデータ処理用にFPGAを使用していると聞いたことがあるのですが、なぜCPUではなくFPGAを使用したのでしょうか。またFPGAの動作不良の原因は何だったのですか。
A-13:ミネルバII-2はCPUもFPGAも使っています(このような組み合わせは宇宙機器ではよく行います)。たまたま不具合が生じたのがFPGA部分だったということです。FPGAとCPUの間の連動性が悪くなったのが原因です。
Q-14:カプセル分離時は、地球から何万kmも離れたところから実行されましたが、分離地点の計算はどのくらいの時間をかけて行われましたか。また検算等は何回くらいされたのですか
A-14:この手の計算を行うのは、最初はラフな計算により大局的な成立性を確認します(最初の計算は2009年ごろに行いました)。徐々に精密化していき、最終的な完全な軌道計画が完成したのは地球帰還の数か月前です。その間、数えきれないほどの検算と修正を行っています。(すみません、ですので数字は出せません)。
Q-15:2031年の小惑星到達を目指すミッションでは、どのようなミッションが行われるのですか?
A-15:1998KY26という小惑星に到着します。この小惑星は直径40mほどととても小さく、自転周期は10分ととても速いのが特徴です。はやぶさ2は2031年にその小惑星に到着し、素性を明らかにします。まずは近くから撮影などの遠隔観測を行いますが、はやぶさ2にはまだサンプリングのための弾丸と、ターゲットマーカーがひとつずつ余っています。それらを使った(着陸などの?)工学的な挑戦の場ともしたいと考えています。
Q-16:「はやぶさ2」は現存ということですが、次のミッションも「はやぶさ2」で行うのでしょうか? それともあくまでもデータ取りのために生かされているのでしょうか? もし「はやぶさ2」が次のミッションへ参加するにはメンテナンスはどうするのでしょうか?
A-16:はやぶさ2は、現在も飛行を継続中で、2001CC21、1998KY26という2つの小惑星の探査を目標としています。一方でJAXAの探査ミッションとしては、はやぶさ2以外にもいくつか計画されています。2020年代は、水星探査「ベピコロンボ」、月着陸「SLIM」、枯渇彗星フライバイ「DESTINIY+」、火星衛星サンプルリターン「MMX」などです。はやぶさ2自身はすでに宇宙にいるので、メンテナンスとしてできることは、遠隔指令で出来る範囲になります。(たとえば燃料補給みたいなことはできないです。)
Q-17:「はやぶさ2」がみんなに応援されるプロジェクトになるため、広報等で気を付けたことはありますか?
A-17:成果の発表の場というよりも、むしろこれから行おうとする挑戦とそのリスクや挑戦の意味も含めて発信することに努めました。そうすることで挑戦の価値や難しさ、臨場感を共有できることを目指しました。
Q-18:資金力がない中で他の大国を先駆けて今回のはやぶさ2プロジェクトが成功を収めることができた要因は何でしょうか。
A-18:はやぶさ初号機の存在が大きいです。20世紀末の時点で、はやぶさのような惑星間往復探査の構想ができたこと、いろいろなトラブルがありながらも往復飛行をやり遂げたこと、その経験が若手に引き継がれはやぶさ2で継承技術と新規技術の絶妙なブレンドができたことだと思います。つまり、はやぶさ2単体で見ては理解できませんが、はやぶさ・はやぶさ2を一連のシリーズとして長い目で評価して初めて成功の要因が評価できるものと思います。

チームづくりに関する質問

Q-19:「はやぶさ2」のチームメンバーと親交を深めるうえで何か意識して行ったことはありますか?
A-19:一寸闇は闇のプロジェクトなので、祝うべき時はいつもすぐみんなで集まって祝っていました。
また、プロジェクトの節目でチームのご家族に仕事の状況を見てもらう場を設けるということをやったりもしました。しかし、一番はやはり仕事の場で、メンバーの仕事がきちんとチーム内で評価され、個々人がチームにとって重要な役割を果たしているという雰囲気を作ることが最も重要だと思います。
Q-20:とても大変なプロジェクトだったとは思うのですが、映像を見たところ着陸時もピリピリとした雰囲気がなく、よい雰囲気のチームなのだという事が伝わってきました。チーム内の雰囲気を保つ秘訣は何ですか?
A-20:重要な局面でチームが臨機応変の判断をできるためには、緊張感は“適度”であることが大事です。脳内がリラックスした状態で重要な運用に臨めるように、事前訓練を繰り返していました。それから、緊張感の続く運用の中でも一瞬気を抜ける時間があります。そういう場面で、ユーモアのある会話をしたり、雑談できるカフェスペースをつくっておいたりといった小さな工夫はたくさんしました。
Q-21:全世界からの期待という大きなプレッシャーの中、成功の要因にチームのモチベーションの高さが一因と思う。チームのモチベーション維持向上のためにどんなことを実施していましたか?
A-21:長期に渡るプロジェクトでモチベーションを維持するためには、個々のメンバーにとって短中期的な挑戦があることだと考えました。どうしても大人数の事業になると、計画が進むにつれてルールが増えてがんじがらめになりがちですが、そういうチームのルールやはやぶさ2の機能制限を破ってでも面白いことを考えてみよう、という雰囲気を作りました。そういう中から、はやぶさ2の主目標にはなかった成果が生まれたり、思わぬところではやぶさ2の窮地を救うアイディアが出てきました。若手・シニアに関わらず、挑戦を奨励し、良いものは採用し、ダメなものでも面白さを共有できるしくみがうまく働きました。
Q-22:チーム作りをするうえでの津田先生の考えの基盤はどのように生まれたのでしょうか
A-22:経験・・・でしょうか。私は大学時代に学生のプロジェクトチームを作って超小型衛星を開発しました。小さなプロジェクトでしたが、チームづくりのエッセンスはそこで会得した気がいたします。
また私自身、そういったプロジェクトでそこそも失敗もしていまして、それらの経験をはやぶさ2に活かしました。
Q-23:チームやプロジェクトを運営する上で、大切なポイントは何かを教えてください。
A-23:①個の力の限界を認識する。②物理現象や摂理に忠実に振る舞う。③大失敗にならない算段をした上での挑戦する、の3点が重要かと思います。

その他質問

Q-24:宇宙人材を目指す学生に向けて一言をお願い致します。
A-24:宇宙業界で活躍するためには、広い視野と深い知識+経験が欠かせません。広い視野は、社会人になってからでも養えますが、深い知識と経験は、若いうちにどれだけ一つのことをとことん突き詰めたか、がものを言います。突き詰めた結果が失敗でも構わないのですが、それが自分の納得のいく挑戦の結果であることが大切です。自分が面白いと思った切り口から、研究を深めたり、ものを作ったり、何らかの方法で「突き詰める」ことをお勧めします。
Q-25:研究は大変だと思いますが、院に進学するほど興味を持ったきっかけをお聞かせください。
A-25:研究は大変ですがやりがいがありますし自由度も大きいです。私は宇宙開発の中でも、ミッションを構想し、作り上げていくところをやってみたいと志望していました。当時の宇宙開発の業界の状況(今もそうだと思いますが)では、そういう仕事をやるためには、より深い知識と研究能力が必要、そして博士号があった方がそのような仕事に近づけると考えました。
Q-26:地球人類最大の関心、探求だと思うのですが?地球以外に人類がいる可能性について、個人的な意見でいいのでお答えしてほしいです。
A-26:「宇宙人」がいるかについては、私自身は「いてもおかしくない」と思います。そして、地球外の生命体については、「ほぼ確実に存在する」と思います。
今や太陽系外の恒星に多くの惑星が見つかっていますので、それらの中に生命が住める環境の惑星があっても全くおかしくありません。そういう星が無数にあれば、人間のような知的生命体が存在する可能性はゼロではないでしょう。
最も早く発見される生命体は、太陽系のものでしょう(火星、エウロパ、エンセラダス等)。それらは残念ながら、知的生命体ではないでしょうが。
Q-27:地球帰還した際に「ただいま!」と家の中にランドセルを放り投げて「じゃ、遊びに行ってきます!!」と元気な小学生にたとえられることもあった「はやぶさ2くん」ですが、津田先生にとってはどんなヒトに例えられるでしょうか?
A-27:10年以上手塩にかけて育ててきた、やんちゃで健気な、私(たち)の大事な子供でしょうか。でもとてもできる子なのですよ。
Q-28:2016年に「ひとみ(人工衛星)」に不具合が生じたが、このようにうまくいかないことに関して具体的に何が足りなかったのか。次のためにどのような準備をするべきなのか。
A-28:ひとみの事故は残念でした。直接的な原因は、文献がネット上でも見つかるのでそちらを参照ください。あの事故では、チームメンバーの互いの責任範囲の理解にほころびが生じていました。そしてチームの個々人が責任範囲を超えてでも成功させようという雰囲気が小さかった、あるいはあったとしてもそれをチームの力にするための方策を講じきれていなかったのが遠因と個人的には思います。
Q-29:ノーベル賞は取れないですか?
A-29:「工学賞」や「惑星科学賞」というのがあれば取れるのですが(笑)、直接的には難しいかもしれません。しかし、リュウグウ研究が発端となって、物理学賞や医学生理学賞に繋がる研究が生まれるといいですね。
Copyright(c) 2012 東京電機大学同窓会 All Rights Reserved.